CIDPについて

基礎編:CIDPってなんですか?

※これは、一般的な医療情報です。病気の性質上、症状はひとりひとり違います。治療や症状についての具体的なことは、必ず主治医とご相談ください。無断転載、引用は固くお断りします。

Q.どんな病気ですか?

CIDPとは、chronic(慢性)inflammatory(炎症性)demyelinating(脱髄性)Polyneuropathy(多発神経炎)の頭文字をとった病名です。人間の神経系には、脳・脊髄からなる中枢神経と、それ以外の末梢神経がありますが、CIDPは自己免疫異常により、末梢神経組織に炎症がおきることで生じる慢性の病気です。末梢神経のひとつひとつは、ちょうど電気コードのように、電気信号を伝える内部の芯の役割をする軸索(じくさく)と、これを外からおおって絶縁カバーの役割をする髄鞘(ずいしょう)からできています。CIDPでは、末梢神経あるいはその根の部分の髄鞘が炎症やダメージを受け、この髄鞘を作っているミエリンという物質が壊されてしまうのです。ミエリンが壊されることを、脱髄(だつずい)といいます。脱髄により、神経の電気信号を伝える速度が遅くなったり遮断されたりするため、さまざまな症状があらわれるのです。

Q.どうしておこるのですか?

CIDPの原因は、はっきりとはわかっていませんが、自己免疫疾患の一種と考えられています。私たちの体は、免疫によってウイルスや細菌などの外敵から守られています。ところが、何らかの原因によって免疫のバランスが崩れると、免疫システムに誤作動が生じ、誤って自分の体を攻撃してしまいます。CIDPは、自分の末梢神経の髄鞘、つまりはミエリンを外敵と誤認してしまい、攻撃することによっておこされるのではないかと考えられています。

Q.患者数はどれくらいですか?

CIDPは、患者数の少ない稀な病気です。2005年の調査によれば、成人10万人に対する有病率は2.17人、小児は0.28人と報告されています。この数字に基づけば、全国で2000人程度の患者がいることが推定されます。

Q.どんな症状がでますか?

CIDPの症状とその程度は、患者ひとりひとりによって大きく異なります。典型的な症状は、手足の運動障害と感覚障害です。手足に力が入りづらくなり(脱力)、転びやすくなったり(歩行障害)、物をうまくつかめなかったり(握力低下)、また触った感じがわかりづらい(感覚鈍麻)、痺れやちくちくした痛みを感じる(感覚異常)などの症状がでます。こうした症状は、四肢遠位部を優位に左右対称に起こることが多く、腱反射は一般に低下します。筋力低下による疲れやすさも、患者の多くが経験する症状です。位置覚の異常や筋肉の痛み、震えを伴うこともあります。また、ごく稀にですが、脳神経症状や自律神経症状の出る患者もいます。急性の脱髄性末梢神経炎であるギラン・バレー症候群が、発症から数日の間に急激な筋力低下をきたすのに対し、CIDPの場合は、数週間から数ヶ月以上にわたって緩やかに進み、いったん治まった症状が再発、再燃をくりかえすのが特徴です。治療により症状は改善されますが、日常生活に不快な症状を残すこともあり、過労やストレスや風邪は再発の引き金となるので、注意が必要です。少数ですが、慢性的に進行する患者も見られ、長期の経過で障害が残るようになると、筋萎縮が問題となってきます。

Q.どのようにして診断されますか?

CIDPと診断されるための必要条件は、だいたい次の通りです。
・2ヶ月以上にわたり四肢の筋力低下などの症状が進行
・腱反射の低下もしくは消失
・神経伝導速度検査で、脱髄があることを示す伝導速度の遅延や伝導ブロック
・髄液検査で、細胞数増加を伴わない髄液中の蛋白の増加

 しかし、これらは完全なものではなく、症状の経過と各種検査から、他の病気の可能性を否定して総合的に判断されます。必ず行われる検査に、末梢神経の伝導速度を調べる神経伝導速度検査と、髄液を調べる腰椎穿刺(ルンバール)があります。くるぶしの外側の神経を採取して調べる神経生検が行われることもあります。CIDPの診断は容易ではありませんが、近年の医療技術の進歩にともない、早期に診断される患者が増えてきました。

Q.どんな治療がありますか?

CIDPには、効果の確認されたいくつかの治療法があります。免疫グロブリン静注療法(IVIg)、ステロイド療法、血液浄化療法、免疫抑制剤などです。ほとんどの患者が、これらの治療のいずれかによく反応します。症状が再発・増悪したときは、IVIgの点滴か、副腎皮質ステロイド剤を使った治療(プレドニゾロンの内服もしくは点滴)が選択されます。再発を防ぐために、寛解期にもプレドニゾロンを内服することがあります。副作用でステロイドが使えない場合や、効果が少ない場合には、免疫抑制剤が使われます。どの治療法がよく効くかは、人によって異なります。IVIgは即効性はあるけれども、効果の持続期間が短く高価であり、ステロイドは簡便だけれども副作用が多いなど、それぞれの療法に長所と短所があります。副作用に気をつけながら、自分にあった治療法を見つけ、早期治療に入ることが大切です。難治症例に対する有効な治療法の開発が、特に望まれます。

監修:神田隆/山口大学大学院医学系研究科神経内科学
  ~「全国CIDPサポートグループ しおり」(2006年12月発行)より~

応用編:もっと詳しく知りたい人のために

1 歴史的背景――いつ頃からある病気ですか?

CIDPの歴史は、1958年にイギリスのAustinが、いくつかの特徴ある症状から「ギラン・バレー症候群(GBS)」とは異なった疾患として報告したことに始まります。その特徴とは、四肢の筋力低下が数ヶ月にわたって緩徐に出現し、副腎皮質ステロイドが症状の改善に有効で、再発を繰りかえすという点でした。  以後、類似の症例がギラン・バレー症候群との関連で討論され、その慢性型などとして報告されてきましたが、1975年にアメリカのメイヨー・クリニックのP・J・Dyckらが53症例の検討を行い、ギラン・バレー症候群とは異なった疾患単位としてChronic inflammatory Polyradiculo neuropathy (CIP)の名前で統合することを提唱しました。後に彼らは、demyelinating の一語を挿入し、この疾患群を「CIDP」と名づけました。そして、1984年発行の成書の中で、現在広く用いられているCIDPの疾患名が用いられるようになったのです。

2 概念と定義――どんな病気ですか?

CIDPとは、chronic  inflammatory Demyelinating Poly(radiculo)neuropathyの頭文字をとった病名で、日本語で「慢性炎症性脱髄性多発(根)神経炎」といいます。chronicは「慢性;病気が長期にわたること」、inflammatoryは、「炎症性;炎症が存在し神経がダメージを受けていること」、demyelinatingは「脱髄性;ミエリンという物質からなる神経の外側を覆う髄鞘が壊れたり脱落すること」、Polyradiculoneuropathy のpolyは「多数の」、radiculo は「根(元)」、neuropathyは「末梢神経の疾患」を意味し、「多数の神経根や末梢神経が障害を受ける病気」を表わしています。  CIDPは、末梢神経に脱髄を繰りかえす慢性の病気であり、四肢を中心とする脱力や運動障害および感覚障害を主な症状とします。CIDPは、ウイルスや細菌などの外敵から体を守るはずの免疫が、誤って自分自身を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一種と考えられています。遺伝性のものでも伝染性のものでもありません。脳や脊髄、末梢神経や筋肉を診る神経内科領域の病気です。  ある専門家は、CIDPを「末梢神経の長期にわたる進行性または反復・再発性の脱髄を基本病態とし、末梢神経ミエリンをターゲットとする自己免疫疾患である」と定義しています。

3 原因――何が起きているのですか、どうしてなるのですか?

人間の神経系は、二つの主要な部分、すなわち中枢神経系(脳と脊髄)と末梢神経系(その他の神経のすべて)から成っています。私たちが動こうとするとき、脳はその信号を下位の脊髄、次いで末梢神経を通して筋肉へ送ります。他方、私たちが何かを感じるとき、感覚の種類に応じた末梢神経が皮膚から脊髄に、次いで脳へと信号を送ります。  ここで一つ一つの神経の構造は、電気コードにたとえることができるでしょう。電気コードは、内部の銅線とそれを外側から包むゴムの絶縁カバーからできていますが、人間の神経も同じように電気信号を伝える内部の芯とそれを外から覆う絶縁体からなっています。電気信号を伝える役割をする内部の芯は、神経細胞の一部で「軸索(じくさく)」と呼ばれています。この軸索は、脂肪を多く含む「ミエリン」という物質からなるさやの層で取り囲まれています。このさやが「髄鞘(ずいしょう)」で、絶縁体にあたります。髄鞘は、神経組織を保護するだけでなく、神経に沿って電気信号の伝導を助ける働きをしています。CIDPの諸症状は、何らかの理由で末梢神経あるいはその根の部分の髄鞘が炎症やダメージを受け、末梢神経の電気信号を伝える速度が遅延したり遮断されたりすることで引き起こされるのです。  CIDPは、ギラン・バレー症候群と同じように「自己免疫疾患」とされています。正常ならばウイルスや細菌といった外敵に対して、自分の体を防御するはずの免疫システムに狂いが生じ、誤って自分の体を攻撃してしまうのです。過労やストレスによって免疫力が低下し、免疫のバランスが崩れると、上気道感染や感冒、ワクチン接種などが引き金となって免疫システムに誤作動が生じます。免疫で重要な役割を担っているものに「リンパ球」と呼ばれる免疫細胞がありますが、CIDPでは、おそらくこのリンパ球が、自分の末梢神経組織の髄鞘、つまりミエリンを異物と誤認して攻撃してしまうのではないかと考えられています。ミエリンが壊されることを、「脱髄(だつずい)」といいます。リンパ球は、「抗体」と呼ばれる小さいたんぱく質を産出しますが、この抗体も血液中をめぐって髄鞘や他の神経組織を攻撃して障害を引きおこします。  幸いにも、髄鞘には「シュワン細胞」と呼ばれる特殊な細胞があって、これがミエリンを再生させます。CIDP患者では、ときどき自然に症状が改善することがありますが、これは障害された髄鞘にかわる新しい髄鞘が、数週間から数ヶ月をかけて作りだされるからです。これを「リミエリネーション(再髄鞘化)」と言っています。ダメージが内部の軸索にまで及んでも、軸索もまた再生されます。しかし、再生にはもっと長い時間がかかります。  なぜこのようなことが起きるのか、CIDPの病因はまだ十分に解明されていません。多くの研究者がCIDPに特異的な抗体を検索してきましたが、一部しか成功しておらず、ターゲットとなるたんぱく抗原の同定の試みは、ほとんどが否定的な結果に終わっています。しかしながら、CIDP患者の血清や精製IgGを用いてCIDPの標的分子を探る基礎研究が精力的に進められ、CIDPの病変の成立にはミエリンをターゲットとする液性あるいは細胞性因子のほかに、末梢神経におけるバリアーシステムともいえる「血液神経関門」を破壊するサイトカインと呼ばれる物質が影響を与えているのではないかということがわかってきました。最近では、CIDPとよく似た実験的動物モデルを作り出しての研究も進展し、病態解明への努力が続けられています。

4 疫学――患者数はどれくらいですか?

CIDPは歴史の浅い病気で、患者数の少ない稀な疾患です。2004年9月から2005年8月にかけて、厚生労働省班会議(難治性ニューロパチー研究班)が中心となり、全国規模での初の患者数の調査が行われました。その結果が、2006年度日本神経学会総会において名古屋大学から報告されています。  それによれば、わが国で成人10万人に対する有病率は、2.17人、小児は0.28人。また新規発症率は10万人に対して成人0.64人、小児0.10人。これは、海外の有病率の調査報告とほぼ一致する妥当な数字と思われます。この有病率に基づけば、日本での患者数はおおよそ2000名程度と推定されるでしょう。  成人の場合の男女比は、有病率では1.73:1、また新規発症率では1.23:1と男性の方がやや多いことがわかります。中枢神経の脱髄性疾患である「多発性硬化症(MS)」が、高緯度地方に患者数が多いのに対し、CIDPでは地域的な特異性は見られません。また、年齢的には、小児から高齢者まで幅広く発症しています。

監修:(1~4) 神田隆/山口大学大学院医学系研究科神経内科学
  〔主な参考および引用文献〕
神田隆「慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)および関連疾患――病態解明と治療法の進歩――」『脳の科学(特集ニューロパチー)23:655-663』(2001年)
斉藤豊和、吉井文均訳『Guillain-Barre'Syndromeギラン・バレー症候群、慢性炎症性(脱髄性)多発ニューロパチー(CIDP)、多巣性ニューロパチー(MNN)一般向き手引き』(国際ギラン・バレー症候群財団、第9版2000年度版)
Eileen Evens著、Prof.R.A.C.Hughes校閲、金井貴子訳、山本浩二監修「CIDP慢性炎症性脱髄性多発性根神経炎 患者、親族及び友人のための小ガイドブック」(英国ギラン・バレー症候群支援グループ、1997年)
日本神経学会「慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)治療ガイドライン」  ほか多数
以下、随時アップロードしていく予定です。
5 症状――どんな症状が出ますか?
6 診断と類似疾患――どのようにして診断されますか?
7 治療――どんな治療がありますか?
8 CIDPと共に生きる――日常生活で注意することは何ですか?

発展編:最新情報を求めている人のために

■難治性CIDPにおける治療戦略 (2006/12/6)

2006/12/6 「第8回神奈川県神経免疫フォーラム」特別講演報告 ■難治性CIDPにおける治療戦略(獨協医科大学神経内科講師 小鷹昌明)  小鷹昌明先生(獨協医科大学神経内科講師)による上記標題の特別講演が行われました。獨協医科大学神経内科は、結城伸泰先生を中心としてGBS・CIDPの臨床と研究が最も行われている医療機関の一つです。ステロイドで寛解を維持できず、頻繁にIVIgを必要とする難治性CIDPに対して、免疫抑制剤シクロスポリン(商品名ネオーラル)の有効性が確認され、CIDPへの保険適応に向けて臨床研究が開始されたというニュースがありました。今後、さらに症例数を積み重ねる必要がありますが、これに基づきCIDP治療指針の暫定案が紹介されました。 〔講演要旨〕 CIDPは、症例ごとに経過や治療への反応性が異なることから、複数の異なる疾患を含む不均一な症候群と考えられている。治療の第一選択は、簡便性、即効性の点で優れているIVIgであるが、この治療だけでは異常な免疫応答を終息させることはできず、多くの場合効果は一過性であり、再燃する。そのため副腎皮質ステロイド薬の併用が、寛解を維持するための治療として理にかなった選択肢の一つである。しかし、ステロイドを使っても寛解を維持できず、繰り返しIVIgを必要とするCIDPがある。このような患者に対し、シクロスポリン(ネオーラル)を導入することにより、IVIgの反復投与回数(再燃回数)が減少し、寛解を維持することができた。 ・初期投与量として3㎎/kg/日、トラフ値(血中濃度)を100-150ng/mlに調節する。すぐには効果が発現しないので、少なくとも6ヶ月は使ってみる。効果がみられれば1年間継続し、その後6ヶ月毎に20%ずつ減量していく。7㎎/kg/日を超えると腎毒性が強くなるので、効果が不十分で増量したとしても4-5㎎/kg/日までとする。 ・ CIDP30症例のうち、ステロイドを十分に使ったにも関わらず寛解が維持できなかった14症例に、シロスポリンを試みた。10例に効果があり再燃回数が減少した。3例は副作用により中止、1例は無効であった。 ・シクロスポリンは、臓器移植後の免疫抑制剤として広く使われているが、免疫抑制の結果、悪性腫瘍のほか腎機能障害(注)、易感染性などが考えられるので、言うまでもなく定期的な検査をきちんと行う。(注)クレアチニン値が通常値より30%上昇した場合、1ヶ月中止し、通常値に回復したら再開する方針をとる。 ・シクロスポリンのCIDPに対する保険適応に向けて、信州大学の池田修一先生を研究代表とする医師主導型の臨床研究が開始された。今後、症例数を積み重ねていく必要がある。 〔備考〕ステロイドと免疫抑制剤を併用するか、免疫抑制剤の単独使用とするか、について会場内より質問が出された。小鷹先生のグループではステロイド漸減中に再燃した場合、服用中のステロイドの増量はせずにシクロスポリンを加え、最終的にはシクロスポリンの単独使用に切り替える方針をとっているが、これについても今後、症例数と研究を重ねていく必要がある。 !注意! 上記は、暫定的な研究報告の一つであることをご承知おきください。症状の程度や治療への反応性は一人ひとり異なります。具体的なことは、必ず主治医とご相談ください。                                 監修:小鷹昌明(獨協医科大学神経内科講師) 文章:マッシュルーム(2007/2/17記)

その他

初めて免疫グロブリンの大量静注(IVIg)を受ける方へ(2007/2/19)
CIDPにおける自己抗体 Goromaru (塚口-藤澤 裕美)(2007/8)